10月
アベリア
涼やかな秋風が吹く頃の朝、雨戸を開けたとき、まだ花の姿を見ていないにもかかわらず、キンモクセイの香りが風にのってくる。その濃厚な香りにつられるように思わず ウッドデッキ の上を素足で2、3歩進んでしまう。秋を知らせてくれる国民的な香りだ。そして花も盛りをすぎる頃、キンモクセイの樹下一面に橙黄色の小花が散って、金粉を散らしたような豪奢な景色になる。
木犀の 香にあけたての 障子かな 高浜虚子
キンモクセイ
葉を落として竹箒を逆さにしたようになったケヤキの裸木、その向うにサザンカの生垣が緑の壁を作っている。緑の壁のところどころからピンクの花が浮かび上がり、この時期、 ウッドデッキ の上で一息ついて、熱い飲み物を口しながら、このピンクの花を眺めると、心が華やかになる。
山茶花を 旅人に見する 伏見かな 原西鶴
山茶花に 雨待つこころ 小柴垣 泉鏡花
山茶花の こゝを書斎と 定めたり 正岡子規
サザンカ
晩秋の空は高く澄みわたり、陽光はいっとき強く輝きを増したが、午後も遅くなるとやがて陽射しも弱まって、葉を落としたエゴやコナラの枝の影を長く庭に映し出していた。隣家との境の混ぜ垣にも陽は当って、今まで気がつかなかったチャの花が、白絹を思わず光沢をたたえて咲いているのが見えた。白くうつむきかげんの花は、蕾の色づいてきたサザンカの華やかさとは異なり、ひっそりと咲きながらも気品を漂わせ、晩秋の庭がシンと静まり返るのを感じる。
茶の花に 隠れんぼする 雀かな 一茶
茶の花や 黄檗山を出でて 里余 夏目漱石
チャノキ